(photo & text Izumi)
高知のとある山奥、沢の源流部を歩いていたときのことです。水の音とカワガラスの鳴き声を聞きながら歩いていると、ふと足元に白く光るものが落ちているのが目に入りました。藤の花にしては時期が遅いな~と思いながら拾い上げると、明らかにラン科の形。思わず目を疑いました。

恐る恐る周囲を見上げると、高い木の枝にちらほらと白い花が咲いているのが目に入りました。望遠レンズを通してみてみるとセッコクの花でした。

セッコク(石斛、セキコクとも)――かつてはどこにでも見られたそうですが、今では多くの都道府県でレッドデータに掲載されている希少な着生ランです。自生地の破壊や盗掘によって姿を消しました。ところが、今回訪れた高知県では、このセッコクがレッドデータブックに載っていません。その理由は知りませんが、ただ高知県は日本有数の豪雨地帯であり、水の豊富さがセッコクの生育に好都合でそこそこ数がいるのかもしれません。

属名の Dendrobium は、樹(デンドロ)に生きる(ビウム)者という意味です。さらに沢沿いに注意深く進んでいくと、空中湿度がぐっと高まっているエリアがあり、そこにはセッコクの群落が広がっていました。

よく目を凝らすと、ややピンクが差す個体も見られ、その優雅な佇まいに思わず息をのみました。今まで私が見てきた自生地は、よく知られ保護されているような場所ばかりでした。このようなごく普通の山で大きな群落に出会ったのは初めてだったので、すごく感動しました。

生き物好きとして、心躍る景色でした。コケや地衣類と共にラン科の植物が木々に張り付いている美しい光景が、これからもずっと残っていてほしいと思いました。

そっと写真に収め、自生地をあとにしました。これからも素敵な光景を探して高知の山を歩いてみたいと思います。

撮影機材:Sony α7 IV, FE 200-600mm F5.6-6.3
現像ソフト:Adobe Lightroom

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